「片折」では珍しくマグロがだされた。
サクが三本さらしの上に乗っている。
「漁師が一度どうしてもこれを食べてくれって言われてまして、普通マグロは寝かすのですが、これは獲れたてです」。
部位違いで三昧切りつけ、細かく包丁目をいれる。
中トロからいった。
脂が締まっている。
グッと顎に力を入れて噛み切ると、優美な脂が流れ出て、口の温度で溶け始め、甘みをゆるりと広げていった。
次に赤みである。
包丁目が入っているためしなやかだが、筋肉の躍動がある。
普段はあまり感じない、アスリートならではの凛々しさが訴えてくる。
「俺は生きてるぞ」と言いたげな勢いがあり、喉に消えようとす刹那、ふっと爽やかな血の香りをたてるのだった。
金沢「片折」にて。
手前は今まで感じたことがない生命の力を感じさせたガスエビ。